アンパンマンにおける「顔」とは何か
■顔は語る
アンパンマンではしばしば「顔」がモチーフとなり物語が展開される。
キャラは「顔」で語るのであり、また「顔」が出た瞬間、物語はすべて語り尽くされるのである。
「アンパンマン」「カレーパンマン」「食パンマン」、それぞれの初登場時、我々はその顔を一目見た瞬間にすべてを理解する。
アンパンマン登場時 「ああアンパンか。」
カレーパンマン登場時 「中にカレーが入っているのか。」
食パンマン登場時 「なんか顔の系統が違うね。」
この物語は顔が出るか、出ないかで全てが決まる。顔が出れば、全てがが分かる。また顔が出なくても、常に「新しい顔」は作られる。二律背反の物語なのである。
この作品には表向きはアンパンマンが主人公である。しかしながら前述の通り、彼らが出てきた瞬間に話は終わってしまうため、もう一人の主人公により物語的な動きやストーリを展開させて行く必要がある。
■カバオの正体とは
もう一人の裏の主人公。それは「カバオ」である。
この「カバ」+「男」に込められた役割は実に大きい。
お腹が空いた時、アンパンマンの顔を最初に食べたのもこの人物である。
さてこのカバオであるが、カバオは常にお腹を空かせている。
また、カバオが初めてアンパンマンの顔を食べた時、彼は一人で森の中で泣いていたのである。
なぜカバオは森の中で一人でお腹を空かせて泣いていたのか。年端もいかない少年が一人で食べ物も持たずに長時間にもわたり外を歩き続けるとはどういう状況なのか。
これは単なる「お腹が空いた」という単純な構造ではなく「お腹を空かせたもの」の存在がある事を読み取らなくてはならない。カバオは、見えざる神の手の上で踊らされているという事である。
ではなぜカバオはお腹が空いた状態で一人で彷徨う必要があったのか。
それは、カバオに背負わさせる事になった作品の主要な基本設定と関係している。
カバオとは何か。カバオとは人間である。
彼は人間の少年の胴体にカバの顔を取り付けられた遺伝子操作された人間なのである。
なぜカバオは人間であると言えるのか、それは彼に付いている名前から読み取る事ができる。
時に、我々は人間に「ひと男」と名付けるだろうか。いや、そんな名前をつける事は無い。
ではなぜそう名付けないのか。それは「男」という字に「人」の意味が入っているからである。
すなわちカバオとは人間である。カバオはカバ人間であり、人類そのものである。
つまりカバオがお腹を空かせて泣いているのは、我々人間の赤ん坊がお腹を空かせて泣いているのと同じ原理である。赤ん坊であるから、同じことを繰り返すのである。
彼は知恵が無いため、食料を携帯するという事もできず。同行者の付き添いなどもなく単独で森へ入り、お腹を空かせ、泣くという事を永遠と繰り返し行っているのである。
我々は決してカバオを馬鹿にはできない。我々もかつて赤ん坊として親に育ててもらって今に至るのだ。カバオはまだお世話が必要な世代に生きているのだ。
■顔交換インターフェース
さて、作中ではしばしばアンパンマンの顔が新しい顔に交換される話が出てくる。
この取って付けたような設定(まさに顔を取って付けるのであるが)に、どのような意味が込められているのであろうか。
アンパンマンの顔は脱着可能であり、顔の交換が多く行われる。カレーパンマンらも同様に顔の交換が行われる。
交換が行えるというのは、業界で言う所の「インターフェース」である。
USBメモリのようなものを思い浮かべてみて頂くと良いだろう。
脱着可能で、付け替えるとそれぞれが違う動きをするようになる。
このインターフェースを有したのは「パンの形をした顔」と「胴体部分」であり、それぞれ1つの接合点を持つ。
我々の研究仲間では、これを「パンマンインターフェース」と呼称している。
このパンマンインターフェース(以下、パンマンとする)を有したものは、自由に顔と胴体を付け替える事ができるのである。
ここで際立つのが「顔」部分を脱着可能にした事である。
しばしばヒーロー物の物語ではベルトやマントを付け替える事で能力強化を行う事がある。だが、この物語はそれを「顔」で再現しようとしたのである。
新しい「顔」が飛んでくるとき、無回転である事も注目すべきである。
毎回のごとく無回転で「顔」を投げる事ができるのであろうか。相当の鍛錬を積まなくては出来ない芸当である。
「顔」が交換された時、アンパンマンは決して物理的な筋力アップ等のパワーアップは行われない。「顔」交換時に変化するものは精神面のみである。
つまり、精神面が改善された事により状況を打破する事ができるという訳である。
このパワーアップを伴わない状況打破が、パワーインフレを起こさないための重要な設定となっている。
パワーインフレが発生しないため30年以上もストーリを展開し続ける事ができるのである。
この設定、少年漫画のストーリーを構築する上で参考になるのではないだろうか。