「1990年の少年」駄文の実験場

妄想の日々を文書化しブログに流し込む事にしました。例えるなら脳内のトイレです。

もしも「キャバクラ」が政府主導で経営されたら

少子化対策としてのキャバクラ助成金

20XX年、本国は1年間の出生数が50万人を割り込むという前代未聞の少子化時代が到来していた。

こんな中、少子化に歯止めをかけるために組織された国家戦略委員会の少子化担当グループでは「キャバクラ」に助成金を支払い、一定の金額までの「キャバクラ料金」を国家が負担するという案を取りまとめる事とした。

この「キャバクラ助成法案」を巡り国会では「賛成派」と「反対派」に分かれ幾度となく話し合いが行われてきたがその議論は平行線をたどるばかりであった。

以下は主な「賛成派」が主張する意見である。

●おとなしく真面目な男の子に生身の女の子と触れ合う機会を与える事ができる
●女子に対して清廉なイメージを持っている男子を、リアルな現実の女子に慣れさせる
●政府が責任を持ち「キャバ嬢」を育成する。これは古来から続く大和撫子の歴史の継承である。

大きくはこのような形で賛成派の意見はまとまっていた。この「キャバクラ助成法案」では政府が助成金を支払い、担当省庁の監督のもとで健全な経営を図ることと、より高度に「提供する側」「受ける側」双方のメリットとなるように目標を設定し、ひいては国内の「男女交流」をより活発にし、少子化を食い止めようとするのが本案の骨子である。

それに対する「反対派」が主張する主な意見も取り上げておく。

●3次元の女子よりも2次元の女子の方が萌えるのは現代社会の常識である。
●原始的な子作りではなく、遺伝子工学と対外受精の研究にもっと予算を投じるべきである。
●キャバクラのトイレは不潔であり、できるだけ行きたくない。

以上が反対派が提唱する主な主張である。

さて、この議論は各社マスコミやテレビ局も連日大きくとりあげる事となり、この1年間は世論を巻き込んでの大きな本国における政策論争の的となっていた。

とくに一般市民の中で良く聞かれる声として以下のようなものがあった。

「可愛い子がいるなら行くけど、支払う料金に見合う子がいないから行かない」

というものである。この意見はほとんどが20代~30代の男子から寄せられていたものであった。

逆に50代以上の世代でこのような意見が少なかった事の原因としては「バブル世代はガツガツしており、目の前に女がいたらすぐに手を出す事が礼儀であり慣例となっており、じっくりと考えて吟味する習慣に欠けている」と指摘する声が多く聞かれた。

このような意見に対し「キャバクラの最初のワンセット(60分)」を政府がお金を負担し、男子がキャバクラに通いやすくしようというという考え方が次第に大衆に浸透して行った。

 

■キャバクラとはいかなる場所なのか

さて、キャバクラにおける「最初のワンセット」というのは60分の間に20分ずつ3人の女の子が入れ替わり、合計3人の女の子との会話が終わるまでの入店直後の60分の事をいう。

お客はキャバクラに入店すると黒服のボーイに対して「指名の女の子」の有無と、最初のお酒のオーダーを告げる。ここで指名するキャバ嬢がいない場合は「フリー」で入店することとなる。

「フリー」で入店した場合は、入店後に、まず1人目の女の子が着席し20分の間、一緒にお話をしたりお酒を飲んだりする。そして、そこそこお話が盛り上がってきたという頃を見計らって、いきなり「私呼ばれたから行くね!」と言って席を立ってしまうのである。そしてその直後に新しい2人目の女の子が着席し、また新たな20分間が始まるのである。そして2人目も同じく20分後に退席し新たな3人目の女の子が登場する。

さて、この3人のサイクルを終えた頃「一番最初の女の子が良かったな」と思えば、延長料金を支払いその女の子を「場内指名」して、追加で次の60分間でその女の子の接客を受けることができる。

なぜこの「指名」というシステムのあるのだろうか。その理由については諸説ありここでは深くは説明する事ができない。

大きくは「指名」というシステムを通じて「指名料」を追加徴収するという事が大きな目的となる。また「指名された嬢」は60分間を通じて「ワタシも飲みたぁ~い!」「おなかすいたァ~」などと言いながら、追加のドリンク代やポップコーン代金を追加で徴収するという事も可能になるのである。

ちなみに、お酒をおかわりした時にキャバ嬢がボーイを呼びつける言い方は決まっており「おねがいしま~す!」と元気よく発声するというのがお決まりの作法である。
さて、キャバクラでのお酒、ポップコーン類、もちろん無料ではなくかなり割高な料金設定となっており、気軽な気持ちでこれらを追加注文する事に踏み切ることは出来ない。

このように男にとって圧倒的に不利な状況下において、なぜ男性陣はキャバ嬢を「指名」をしなければならないのであろうか。それは「指名」をしない客は、店側の集団圧力によって徐々にではあるが店舗から排除されてしまうからだという事が云える。

だから、男性客は別に好きでもないキャバ嬢に対し指名しなくてはならないという空気に流されてしまうというような事もあるのである。

「アイツいつもフリーで来るし、ウザイ」

というような内容の話題がキャバ嬢同士の会話でもささやかれると終わりである。常連のフリー客は店にとってもキャバ嬢にとってに何の利益をもたらさないのである。結果的に店から叩き出されるという仕組みが自然成立してしまうのである。

夜の世界というのは金の力で成り立つ世界である。金の無い男はこの世界から吐き出されてしまう。結果的に金のある男だけが生き残るのである。だから「常連のフリー客」であったとしても、毎日毎晩、湯水のごとく金を使う男は逆に店側から歓迎されるであろう。とにかく金の無い男だけはどんなに面白い会話術を持っていたとしても店舗側からは歓迎されないのである。


■キャバクラ助成法案の提唱者インタビュー

以下は、本法案の提唱者とされる少子化担当グループ長「ナガハマ」さんに対するインタビュー記事の抜粋である。

記者:「なぜキャバクラなのでしょうか?お見合いパーティではダメなのでしょうか?」

長濱:「ダメですね。キャバクラでなければなりません。キャバクラは接客のプロが丁寧におもてなしするのです。お見合いパーティの女性陣はやる気がなさすぎます。イケメン以外の食いつき方が違うのです」

記者:「では、なぜキャバクラに助成金を支払う事で少子化が食い止められるとお考えなのでしょうか?」

長濱:「キャバクラという場所では女はより積極的に、男はより具体的に物事を進める必要があるのです。つまり職業訓練所みたいなところなのです」

記者:「う~ん、よく分かりません。キャバクラは職業訓練所なのですか?」

長濱:「そのように捉えていただいて構わないかと思います。キャバクラは女と男、双方にメリットがあるのです」

記者:「そうなのですか。キャバクラとは寂しい男が気を紛らわすために行く場所なんじゃないですか?」

長濱:「そんな事はありません、キャバクラに行く理由はもっと簡単でいいのです。男だからキャバクラに行くのです。これでOKです。寂しいとか、寂しくないとか、そんな事を他人がどうこう言う必要はありません」

記者:「・・・、そうですか。では女子側にとってのメリットとは何なのでしょうか?」

長濱:「キャバクラでは、女子は接客のお作法を学びます。この接客の所作は古くは茶道や華道から派生して生まれたものだと言われています」

記者:「意外と歴史があるのですね。それ以外にもメリットはありますか?」

長濱:「メイク、ネイル、ヘアメイク、ドレス、アクセサリー、下着など、全ての可愛くなりたい女子の欲望をすべて叶える事ができます」

記者:「そうなのですが、でもそれは出費は自腹ですよね?」

長濱:「いいえ、これらを政府から支給するという事で関係省庁と調整を続けている所です」

記者:「へぇ、これは期待感が大きいですね」


■キャバクラのマクロ経済

さて、本国ではバブル経済崩壊後の「失われた20年」とも「30年」とも云われる時代を経て経済成長率は毎年0(ゼロ)成長、もしくはマイナス成長という社会が到来している。

さらに追い打ちをかけるように「働き方改革法案」による法改正や、労働者のマインドの変化もあり「生産性の高い労働」とは何かという労働の在り方自体が問われるという時代になっている。

そこで目を付けられたのが「ギャバ嬢」の給与である。

ある統計データによると、時間給で換算されたキャバ嬢の給与が、1部上場の大手企業の役員クラスの時間給に換算した給与レベルと同じであるということが判明した。

残念ながらキャバ嬢は一日あたり3~4時間程度しか働く事が出来ないので一年間トータルの給与に換算すると減ってしまうが、時間当たりの給与はとても高い水準であるという事が云える。

そこである民間のシンクタンクが試算した所によると、本国においてキャバ嬢が200万人増えたとした場合、本国のGDPが10%増加する、というシュミレーション結果が算出されたのである。

これは本国の労働人口が約6700万人である事から逆算してもなお、キャバクラという事業がとても生産性の高い産業であるという事が云える。

また、先述の長濱グループ長のインタビュー記事にもあったように、キャバ嬢一人あたり対し、ネイルやメイクアップに関連する美容業界、下着やドレスなどのアパレル業界、アクセサリー製造販売業、プレゼント用のケーキ・花束などの製造販売業、これら業種に対しても需要と供給の連鎖が発生するという事を想像すると、かなりのお金が動く事が分かるだろう。単に「女」が「男」にお酒を飲ませるという事実だけでなく、非常に様々な業態業種にお金が循環しているという事がいえるのである。

そんな状況下において「経済産業省」では、政府がもっとキャバクラ産業を後押しして、より多くの労働力とそれに付随する産業を発展させる事を内閣に提案するという動きがみられるようになった。

元々は「少子化対策」として提案された法案ながらも「経済効果」に対する論点でも議論されるようになり、この「キャバクラ助成法案」は本国において政策の最大の目玉となりつつある。


■キャバ嬢の新しい肩書(かたがき)について

さて、政府の有識者会議の場において今後「キャバクラ助成法案」が本格始動した際、現行の「キャバ嬢」という俗称のままでは不都合であるという意見が出ており、呼び方の変更を求める意見陳述がなされた。

経緯はともあれ、今後は政府が資金を出資し監督する立場になるのである。その職務や社会通念に沿ったふさわしい呼称に変更にする事で、本職に従事する人々に対するねぎらいと親しみを持ってもらうべきであるとの考えに誰も反対するものはいなかった。

この新たな呼称の案であるが、第1の案として「慰安士」という名称が発案された。

昼の仕事で疲れた労働者に対し、夜の街でお酒とトークで労をねぎらうという意図でこの呼称が発案されている。

だが、この名前が「慰安婦」と類似しているという点が指摘されており、この呼称での採用は可能性として低いものとみられている。

第2の案としては「疑似恋愛インストラクター」という呼び方が提案された。

この呼称については、たとえ労働時間外であったとしても「今度いつ会えるの?」という嘘っぱちの営業メールを送り続けている彼女らの姿を如実に表現したものだといえる。

これを正式名称にしてしまうと、もう何もかもがむなしくなってしまわないだろうか。疑似恋愛だって、そんな事最初から分かっているんだよ。でも少しお酒に酔った時くらいは小さな夢を見させてくれよ。そんな意見が多数を占めており、この呼称での採用も見送られるものとみられている。

第3の案として「アゲ士」という呼称が発案された。

気分をアゲる。男をアゲる。楽しいお酒と楽しいトークを通じて気分をリフレッシュしてもらい、明日への活力を充填してもらう。そんな意味が込められた名称である。

またキャバ嬢の事を「夜の蝶」や「アゲハ」と呼ぶことにも通じており、この「アゲ士」という呼称が現在のところ一番有力な候補となっている。


■「アゲ士」を取り巻く社会の変化

この「キャバクラ助成法案」により「アゲ士」を広く支援していく社会的な動きを通じて、キャバ嬢の社会的ステータスも確立されて行くと考えられるようになって来ている。

「アゲ士」の厚生年金への加入や、無担保ローンの借入枠の拡充、保育施設の完備や、前述にも述べたように、夜の蝶へ変身するための支度金を政府が負担する事に加え、営業電話の代金、営業メールのパケット料金までもが政府が負担してくれるという動きにもなっている。

さらに経済産業省では「アゲ士」を国家資格として認定する動きを見せており、国家試験の合格者に対しては政府より認定状が送られることとなる。

このアゲ士の資格ラインナップとしては「初級アゲ士」「高度アゲ士」「アゲスペシャリスト」「アゲマネージャー」「エクゼクティブ・アゲ士」などの国家資格のラインナップが予定されている。

この「アゲ士試験」の設立を受け、各学校法人では「アゲ士コース」を新設した専門学校を作るなどの動きを見せており、私立大学等においても「アゲコミュニケーション学部」が新設されるなど、教育業界におけるインパクトも少なくないものとなっている。

また、今回新たに設立される専門学校では入学後にまず初めに「バーニラ、バニラで高収入!」と歌う授業があるという事になっている。

あの上手すぎても雰囲気が出ず、下手過ぎても萎える。あの絶妙なヘタウマな感じで歌えるようになるためには、とても厳しい練習を積まなくてはならないのである。

今後「アゲ士」が活躍するであろうこの社会が実り多い世の中になる事を祈るばかりである。